Golden Age of Rock 'n' Roll 001J

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ロックミュージックは1950年代のアメリカで黒人アーティストによるリズム&ブルースを主に白人ティーンエイジャーがロックアンドロールという新ジャンルとして聞き始めた辺りをスタート地点と考えるのが一番シンプルで妥当な結論だろう。

元々黒人リズム&ブルースはレースミュージックと呼ばれ大手レコード会社が大々的に手がける事は無く、従って全米ヒットチャートに上ったり全国区のラジオでオンエアされる事はなかったが、そのノリのよさやスピード感に目をつけた一部の白人ティーンエイジャーや音楽ファンから支持され、40年代後半ぐらいから「ロックアンドロール」誕生への気運が高まりつつあった。

こうした状況は一部の白人音楽関係者も察知し、オハイオ州クリーヴランドの白人DJアランフリードは1951年に自らの番組で黒人アーティストのリズム&ブルースを「ロックアンドロール」と名付けて紹介し、この辺りから新ジャンルであるロックアンドロールが若者を中心に徐々に人々に認識され始めたのだった。

元来リズム&ブルースの楽曲の中には50年代以前からタイトルに「ロック」や「ロール」といった単語を含む楽曲が多数存在し、それらをヒントにロックアンドロールと言う言葉が自然発生的に生まれたような部分もあった。

ここまでの状況であったらロックミュージックは今日ほどの広がりは見せていないだろうし、一部好事家や先鋭的なものを好む人々が嗜むニッチな音楽ジャンルとして後世に伝えられていたかもしれない。

ロックミュージックが全米規模で広がりを見せるには、大手レコード会社の宣伝力・販売網・メディア戦略・話題づくりが不可欠であり、そのためにはプロモーションに限りのある自転車操業のインディペンデントレーベルに属する黒人アーティストではなく、強大な大手レーベルによるバックアップを伴った白人アーティストの存在が必要だった。 

リズムアンドブルースが全米規模で広まるのに黒人アーティストでは不可能であった、という部分にピンと来ない場合もあるかもしれないので補足すると、50年代のアメリカは露骨な人種差別が横行しており、一部例外はありつつも大手レーベルはまず黒人アーティストを扱わず、ましてやアグレッシヴなサウンドや生々しい表現を含むリズムアンドブルースは、大衆向けのヒットポテンシャルの高い作品とは対極にあるため、冒険をしてまで扱うはずも無かった。

とはいえ局地的ながらもマグマのように日々増大する黒人リズムアンドブルースへの若者によるニーズにビジネスとしての大きな可能性を感じている関係者もおり、妥協策として白人アーティストによるカバーバージョンを大手が発売し、それなりにヒットするパターンもあったが、白人向けに漂白されたアレンジやサウンドは肝心のビート感やアグレッシヴさで元の黒人アーティストに遠く及ばないケースが殆どで新たなムーブメントを起こすにはまだまだ仕掛けも役者も足りないのは明白だった。

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そんな折、白人アーティストのビルヘイリーは、自身がDJを担当するラジオ番組や自らカバーした黒人リズムアンドブルースの作品への反応を通してニュージャンルであるロックアンドロールへの可能性に触れていた。彼は白人向けのフォーマットであるカントリー畑のアーティストであったが、元々カントリーの中にはヒルビリーやウェスタンスウィングといった、伝統的に黒人リズムアンドブルースの要素を積極的に取り入れたスタイルが存在しており、そんなシーンに身を置いていた彼がロックアンドロールを手がけるのは極自然な流れだった。

1954年に大手のデッカレコードに移籍した彼は、ロックアンドロール最初のナショナルヒットと言われる「ロックアラウンドザクロック」をリリースし、全米チャートナンバーワンを獲得した。この曲は発売当初こそあまり話題にならなかったが、発売から1年経った55年に映画「暴力教室」に使われて爆発的なヒットを記録した。

この映画は当時社会問題にもなっていた10代ティーンエイジャーの非行を題材にしており、ロックアンドロールが新しく出現したティーンエイジャーのサウンド、というイメージを演出や映像を伴ってより明確にわかりやすく提示した。

全国区でのロックアンドロールのミュージックビジネスとしての可能性を証明した形になったビルヘイリーのヒットだったが、見方を変えると単に映画のサウンドトラックだったからこそヒットしたという面もあり、そんな旧来のヒットパレード的慣例、映画自体のヒットと連動してサウンドトラックがヒットする、により成功したロックアラウンドザクロックは全国区のロックアンドロール1号ヒットとしては大いに役割を果たしていたが、センセーショナルなロックンロールビッグバンと呼ぶにはいささか役不足な部分も否定できなかった。

もっと全てが目新しくて刺激的でフレッシュな、ロックアンドロールの熱狂やスピード感を体現できるロックスターの登場が待たれていた。そんな空席をパーフェクトに満たす形で、当時最新のメディアだったTVを通じ、ワイルドな黒人ファッションにガチガチに身を固めて登場したのがキングオブロックアンドロール、エルヴィス・プレスリーだった。